─────樋野くんの柔らかい黒髪が、耳元をくすぐっていた。
樋野くんがすこし体を折り曲げて、自分の頭をわたしの右肩にこつん、と乗りかけている。
甘えるみたいにする樋野くんのその行動にすぐに心臓ははやくなって、本当に嫌だった。
「ミナ先輩、気づいてる?」
じくじくと、熱がまわる。うなじあたりからぐぐぐっと熱くなって、顔中が真っ赤になったような、そんな感覚。
「───それ、まるで、俺につけこんでほしい、って言ってるのと同じですよ」
頬が本当に熱かった。でも、これは夏のせいだと思った。思い込んだ。そうしないと、自分を保てないと思った。
「そりゃ猛烈に、つけこみたいです。立ち直るのなんか待たずに、つけこんでやりたいですよ」
顔を上げた樋野くんが、そのままの近い距離でわたしにそう言う。まだ名前の無い、わたしの中にある小さな感情が大きく揺れた、気がした。


