君に毒針




8月半ば。ちょうどテストが終わった日から1ヶ月ほど。片思いを捨てた日から1ヶ月ほど。


夏休みの中間頃に、わたしたちジャズ研は有志でコンサートを見に行くことになっている。

数年前の卒業生である先輩がプロのミュージシャンになってからずっと続く会だった。



「…ミナ先輩、」



この声を聞くのも、1ヶ月ぶりだった。

このあたりね、と区画が決められているだけで席順までは指定されていない。

軽い会釈をしてからわたしの隣に当たり前のように座った樋野くんは、「ミナ先輩の左隣のお喋りな友達がここにしなよ、って言ったんです」と弁解するかのように言葉を重ねた。



「わたしのせいにすんなよー!樋野!」



左隣のサクラが右隣の樋野くんにそう言う。

頭上を通る、というか、わたしを無視して繰り広げられる会話。
なんか仲間はずれ、なような、そんな不機嫌が落っこちてきて、「なんでもいいよ、どこ座っても樋野くんの自由」と零したら、途端、「俺はここがよかったです、だから木下先輩に言われたからじゃないですよ」と樋野くんは、また弁解をした。


すこし、不機嫌が薄いだ、気がした。自分でも不思議だった。