片思いを捨ててください、と。そう言ったのは樋野くんで、それなのに捨てたわたしを見て驚いたような困ったような反応をするのは、おかしい。
ついこの間までは、もっと大胆に距離を詰めてきていたくせに、今日はただ遠慮がちに頭を撫でるだけなのも、おかしい。
全部全部、樋野くんって、おかしい。
泣き出してしまったわたしの隣に、樋野くんはただいてくれた。
ときどき頭を撫でて「うん、」と相槌をしてくれたけれど、支離滅裂なわたしの言葉は、きっと意味がわからなかったと思う。
受け取った水が生ぬるく変わってしまうまで、樋野くんはずっと隣に居た。
無理に慰めるでも、だめになるような優しさをくれるわけでも、つけ込むでもなく。ただわたしの話を聞いていた。
夜が、ゆっくりと更けていく。満月が、わたしたちを、照らしている。
─────わたしは、この日、すべての片思いを捨てた。


