君に毒針




頑張った。樋野くんの言葉がすうっと心に入り込んで、ゆっくりと浸透する。

大丈夫?そっか、残念だね、悲しいね、辛いね。
失恋したわたしを慰めてくれた数々の言葉たち。思い浮かぶそれは、1個も心に住み着いたりしなかった。

でも、樋野くんのそれは、真ん中にやっぱり刺さってしまう。



「がん、ばった…?」



かっこ悪く聞き返してしまう。もう一度言って欲しかった。そしたら、「うん、ミナ先輩は、頑張ったよ」と樋野くんは繰り返す。



「…きっと、全部捨てたんでしょ?大事なもの、大事にしてたもの、先輩は、捨ててきた。…捨てるのは、大変だったと思うから。先輩はすごく頑張ったんだ、と、俺は思います。先輩は、ちゃんと、頑張ったよ」



樋野くんの手のひらがまた2回だけ、わたしの頭を撫でる。

そうしたら、わたしの中のなにかのスイッチが入ったみたいに、身体の中心から涙が沸きあがるように溢れ出てしまって、「…泣いて、ない」となんにも言われていないのに弁明したら、樋野くんは「うん、」とだけ言って、またわたしの頭を撫でた。