ごくり、と樋野くんの喉が1回上下した。そして、沈黙が、終わる。
「俺は、今、本音を言うと、猛烈につけこみたいです」
「…え?」
「弱ってる先輩につけこんでしまいたいです。慰めたいって思ってます。
泣いてるなら涙拭いたいし、忘れさせてほしいって言うなら忘れるくらいのこと、します。したいです。
こんな、水買ってくるくらいの優しさじゃなくて、もっと優しくしたいです。傷付いてる先輩に優しくして、それで、俺のことをすきになってほしいです。
……でも、先輩は、ミナ先輩は、きっとそうしてほしいとは思ってないし、そんなことしたってミナ先輩は俺のことをすきになんてなってくれない、から、…………だから、1個だけ言います」
言い終えた樋野くんの手のひらが、ゆっくりと伸びる。
それは遠慮がちにわたしの頭の上に乗って、それから、2回、わたしの頭を撫でた。
「─────よく頑張ったね、先輩」


