君に毒針



「リュウ、眉間にしわ寄せてんなよ。可愛い後輩が迎えに来てんだから」



そんな声と同時に先輩とわたしだけの世界はふわりと緩く崩れ去って、頭の上にはだるい重み。

大袈裟身を捩って、背後から頭上に乗るそれ──腕を振り払おうと軽く叩けば、手の主はわざとらしく「いてっ」と抗議の声を上げた。



「清水先輩、もっとリュウ先輩に言ってやってください」



と。背後に立つもうひとりの先輩───清水先輩の更なる横槍を期待すれば、清水先輩はからかうように
「えー、どうしよっかなー?」なんてケタケタ笑って、まるで肘置きにしているわたしの頭にさらに体重をかける。



「というか、清水先輩もサークル来ますよね?でも、わたしはリュウ先輩とふたりで一緒に行くので、清水先輩は1人で行ってくださいね」

「…辛辣すぎて俺泣くよ?」

「て、あっ、リュウ先輩!待ってくださいー!可愛い後輩が肘置きにされてます!置いていかないでください!」

「いや、おい!俺の話聞けよ!?」



横槍野郎、清水先輩に気を取られていたら、いつの間にか目の前から忽然と姿を消していたリュウ先輩───橋田竜星先輩は、気付けば少し先の廊下をひとりで歩いていて。

一直線にリュウ先輩の元まで走って、何食わぬ顔で隣に立って話し始めれば、ちらりと追いついたわたしを一瞥した先輩にまた大きな溜め息をつかれる。

いいんだ、ため息つかれたって。リュウ先輩、なんだかんだわたしと歩いてくれるの知ってるから。