そのときだった。
「…せん、ぱい?」
身体がすこし傾いて、背中に温もりが与えられた。
ぱちぱちと瞬きを数度繰り返して、ようやく、清水先輩がわたしを後ろから抱きとめているのだと気がつく。
優しさをくれる香りが強く鼻腔をくすぐっている。
「…泣かされたらおいで、」
甘く掠れた声。知らない人みたい。
「泣き止むまで、俺が、ずっとそばに居るから」
清水先輩の腕の力が、ぎゅうっと増す。
逃げようと思えば、きっと逃げられた。
だけど、わたしは逃げなかった。
間違った方法で与えられる優しさを、拒否は出来なかった。
毒が、まわりだす。


