君に毒針



「…………傘持ってたんです」

「え?」

「あの日、初めて会った日、傘、持ってました」



わたしのスクールバッグの中には確かに折りたたみ傘があって、あと数秒、先輩が現れるのが遅かったら、何事もないようにわたしは傘を広げていたと思う。

憂鬱な気分でイヤホンをしてから、傘をさして、何食わぬ顔で駅まで歩いたと思う。



「だから、リュウ先輩の傘に入れてもらう必要も、傘を駅で貸してもらう必要も、なんにもなかったんです」



翌日、傘を返しに行ったとき、先輩はマスクをしていて、君のせいで濡れたから風邪ひいた、って悪戯っぽく笑っていたことを、今でも覚えている。

責任取って連絡先交換してよって、リュウ先輩が笑って、責任ってどう取るものなんだってわたしはわけわからなくて。

携帯に表示された、新しい連絡先の文字に、少しの罪悪感と嬉しさを感じていた。