君に毒針



────あの日、わたしは、清水先輩の優しさは、すべてわたしへの可哀想から来ていることを知った。

そして、わたしが可哀想である限り、それはきっと、終わらないだろう、とずるい心で思った。


清水先輩へ片思いをするのは無謀だったんだ、と。芽生えかけた感情が片思いへと花開く前でよかった、と。気付けてよかったんだ、と。
自分で自分を納得させた。


清水先輩の心地のいい優しさを享受するためには、リュウ先輩をすきでいる必要がある。

だから、わたしは、リュウ先輩のことをすきな自分以外を封印しよう。この記憶ごとなくしてしまおう。
こんな小さな芽なのだ。水をやらず太陽の光にもあてず、そうやってしまいこめば、いつか枯れてなくなって土に還ってくれる。



大学に入って、片思いが苦しくて、泣いているわたしを、清水先輩が初めて抱きしめたあの日も。
俺の前では無理しなくていいって甘やかしてくれたあの日も。
不健全な方法で温もりを与えてくれたあの日も。

ちゃんとわたしはわかっていた。


わたしが可哀想だから、こうしてくれるんだ。リュウ先輩がすきなわたしが、リュウ先輩へ片思いするわたしが、可哀想だから、彼は優しいんだ、と。


───わたしは、リュウ先輩のことがすきだ。これは、わたしがわたしであるための、おまじない、だ。