「………わかった。戻るから1個だけお願い聞いてくれますか」
「…なに?」
「明日、付けてきてください。同じ授業あるから、絶対見れる。…だめですか?」
「……いい、よ」
「ん。じゃ約束です」
わたしを追い詰めるように壁に付いていた手を離してから、樋野くんはわたしに小指を差し出した。
遠慮気味に同じように小指を差し出せば、指切りげんまんだからって、なんか子供みたいなことを樋野くんが言う。
嬉しそうに笑う樋野くんが眩しくて、わたしの息の根はじっくりと確実に止まっていく。
『─────先輩の持ってる片思い、全部捨ててください』
まるでひとつではないような、そんな言い方を彼はわざとする。
わたしが必死に隠すものを平気で表に出す。
「戻りましょう」と、歩き出した樋野くんの背中が、不意に、ないことにした、なくしたことにした、あの記憶とリンクする。
────閉まったあの記憶を、呼び起こすつもりはなかったのに。
樋野くんのせいで暴かれた記憶が、残酷な真実を知った記憶が、フラッシュバックしていた。
ああ、本当に。最悪な気分だ。


