「ミナ先輩今何考えてますか?」
「……樋野くんが怖いって思ってる」
「…心外なんだけど」
「事実だから」
わたしは、樋野くんが怖いよ。
リュウ先輩のことでいっぱいで、甘い毒に溺れて、そうやって生きてきた日々を、まるで息をふきかけて綿毛を飛ばすように簡単に変えていく樋野くんが怖い。
「樋野くんは狼だよ」
「え?…なにそれ、煽ってるってこと、ですか?」
「わたしは豚で樋野くんは狼。家を吹き飛ばされそう、樋野くんの肺活量は怖い」
「………ごめん、全然意味わかんないんですけど」
樋野くんがすごく近くにいて、息が触れ合うような距離なのに、こんな冗談を言えるくらいに自分が落ち着いていることに、なんだかびっくりしてしまう。
でもそれって、なんかわたしらしくなくて、ちゃんと焦ってるんじゃんか、って自分で自分につっこむ。


