君に毒針



頭を撫でている反対の手で、ミナの長い髪に触れる。

少量だけ手にとって、ミナには気付かれないよう、そこに唇で触れれば、余計に虚しさが増していく。



「なあ、ミナ」

「……なに?」

「俺、ショートカットすきなんだよね」



長い髪が、綺麗に手入れされた髪が、本当はずっと嫌いだった。リュウがすきだからって伸ばした髪が、嫌い。
だから、切ってほしいだけ。リュウへのすきを残して欲しくないだけ。



「………じゃあ、今度髪切ろう、かな?」

「ん、楽しみにしてる」



本当は髪を切る気なんてないことも。

俺が言ったからそう答えたことに、理由なんてないことも。

全部わかってるけど、毎回期待してしまう自分が嫌だ。


もしかしたら、リュウの次にミナがすきになるのは、俺なんじゃないかって。

もしかしたら、ミナの心に俺がすこしでもいるんじゃないかって。

そんな淡い夢みたいな気持ちを、どうしたって捨てきれない自分は、本当に滑稽だ。