君に毒針



「先輩っ!こんにちは!おはようございます!今日もかっこいいです!今日も好きです!もしかして、運命ですか!そうですよね!」

「………マジでうるさい」



─────いつも通りの平日。いつも通りのわたしのテンション。

講義室からゆっくりと出てきただいすきな先輩は、待ち伏せしていたわたしを一瞥してから、本当にかったるそうに額にしわを寄せた。


先輩、そんな先輩の表情ですらわたしキュンキュンギュンギュンするんです、心臓がバクバクして大変なんです、なんて。
勢い余って言いそうになったけれど、そんなことを言ったら虫けらでも見る顔されるの知っているから、慌ててきゅっと口を噤む。



「先輩!今日の講義終わりですか!?サークル行きますよね!行きましょうよ!一緒に!」

「行くけど一緒には行かない」

「えっ、行くんですか!やった!」

「……耳ついてる?」

「都合のいいことだけを受け入れる耳が付いてます!」

「……はあ〜、うっざ」



顔を顰めた先輩がわたしの前に立ちすくんでいて、先輩の身体中からは面倒臭いがそれはもうぷんぷんと溢れ出ていた。
講義室から出てくる先輩の同級生たちは、そんなわたしたちを一瞬ギョッとしながら視界に入れて、ああ、いつもの事か、と言わんばかりの哀れみの視線を向ける。


でも、他人の視線なんて関係ない。だいすきな先輩だけを写すわたしの都合のいい瞳で彼を見つめ続ければ、もう一度、はあああ、と盛大なため息をつかれた。

ああ、やっぱり。今日の先輩も120点満点だ。