「晴人!」


心の底から、求めるようにその名を呼んだ。

晴人は目を見開いたまま。



「ごめん。本当にごめんね。私が悪かったの。晴人に迷惑かけるつもりじゃなかった。なのに、こんなことになって」


すがるように伸ばした手は、しかし空(くう)で振り払われた。

晴人は静かに目を伏せる。



「なぁ、里菜子。もう終わりにしない?」

「……え?」

「お前とのこと全部、終わりにしたいんだ」


『終わり』って何?

何を言われているのかわからない。



「お母さんに言われたこと気にしてるの? それとも、噂になってるから? そんなの放っとけばいいじゃない。ねぇ、こっち見てよ」

「………」

「確かに今は無理かもしれないけど、すぐにほとぼり冷めるはずだし。あ、私の怪我のことなら気にしないで。こんなの全然痛くないし。それで落ち着いたらまたふたりで、内緒で」

「里菜子」


晴人は必死な私の言葉を遮る。

やっと晴人の目が、私に向いてくれたのに。



「お前がどう思おうと関係ない。おばさんに言われたことも、噂も、そんなこと気にしてるわけじゃない」

「じゃあ、どうして!」

「俺自身が、もうお前に関わりたくないだけ」


何それ。

本気で意味がわからないし、全然答えになってない。


なのに、晴人は話は終わったとばかりに保健室を出て行く。


追い掛けようとした時、足にピリリとした痛みが走った。

真っ赤な血が、足を伝い落ちていた。