「赤ちゃん連れてた。男の子だった。丸々太っててさ、手足ばたばたさせてて、ずっと動いてんの」

「………」

「俺、今までさんざん親父のこと憎んでたけど、それ見て思ったんだ。あぁ、赤ちゃん元気でよかったなって。星矢の分までしっかり育ってほしいなって」

「………」

「別に親父のすべてを許せたわけじゃないけどさ、でももう、みんなが前に進んでんのに、俺だけ過去ばっか追いかけてんのもバカらしいかなって。それよりは自分が何を大事にすべきか考える方がいいよなって」

「そうだね」


そうだね、晴人。

私たちは、私たちのこれからのことを考えようよ。



「そんなわけで、現実問題として、前に進むためにはまずは、帰っておばさんに頭下げねぇとだよな。俺めちゃくちゃ嫌われてるっぽいから、どうなるかわかんねぇけど」

「大丈夫だよ。お母さんなら、話せばちゃんとわかってくれるはずだから」

「だといいけどな」


力なく言った晴人に、私は顔を近付けた。



「だから、大丈夫だってば。今度はもう、私たちはひとりじゃなくてふたりなんだから、どうにでもなるでしょ」


私の言葉に、晴人はひどく驚いた顔をして、でも次にはまた力なく肩をすくめて見せる。



「お前のそういう、変なとこでポジティブな性格、羨ましいっつーか、呆れるっつーか」


悪口なのか、何なのか。

怒ろうと思ったけれど、でも晴人が優しい顔をしていたから、私は何も言わないでおく。


葉っぱを払ってから、今度こそ私たちは、ちゃんとキスをやり直した。