遼の低い声が、私の気持ちを揺らす。


確かに、祖母とドーナツを食べるのは、今じゃなくてもいい。

遼と言い合いみたいなことはしたくないし、これ以上、我慢させることもできないだろうと、私は諦めた。



「わかった。遼の家に行くよ」


そうとだけ返し、ため息混じりに電話を切って、私は祖母のいる居間に戻った。

テーブルに取り皿を並べていた祖母に、声を掛ける。



「おばあちゃん、ごめんね。友達から急用で呼び出されちゃって」

「あら、まぁ、それは大変だ」


私の嘘を、祖母は疑ったりはしない。

それどころか、中学の頃にハブられていたのを知っているので、むしろ私が友達から頼られたと思って喜んでいるようだった。



「だったら早く行っといで」


笑顔の祖母に背中を押され、私は罪悪感で胸が潰されたように痛くなった。



「ごめん。夕方には戻るから。ドーナツも、あとで食べるから、残しておいて」

「そんなの気にしなくてもいいよ。またいくらでも作ってあげるから」

「うん」


うなづくことしかできないまま、私は荷物を手に、家を出た。


祖母に嘘をつき、中途半端な気持ちのまま遼に会いに行くことが、正しいのかはわからない。

けれど、これでいいのだと思うより他に、どうしようもなかった。