「おばさんは? いつ帰ってくるの? 電話した?」


私の問いに、晴人は肩をすくめ、取り出したスマホを見せる。

画面が割れ、電源すらつかなくなっているそれは、ただの真っ黒い箱と化していた。



「うっそ、最悪じゃん」

「おー。機種変したばっかだったのに。天罰かもな」


何に対しての『天罰』?

とは、聞かないけれど。


夜でもわかるほど、晴人の怪我は痛々しい。


どうしようかと思った。

しかしやっぱり、どんなに考えたってこんな状態の晴人を見捨てることはできない。



「ねぇ、立てる?」


私は晴人の手を取った。



「この前、助けてくれたお礼に、その傷の手当てだけでもさせてよ」

「いらねぇよ。触るな」

「いいから。私だって一応、看護師の娘だからね。応急処置くらいはできるし」


強引にその手を引っ張ると、晴人は「痛ぇ」と言って、抵抗する気力をなくしたのか、諦めたように立ち上がり、大人しく私のあとをついてきた。

私は、急いで玄関の鍵を開け、上がり框(かまち)に晴人を座らせ、居間から持ってきた救急箱を開けた。



「ちょっと沁みるかもしれないから我慢してね」


言って、消毒液をつけたコットンで患部を拭ったら、晴人は「いっ」と声を上げた。



「だから我慢してって言ったじゃん」

「お前は昔から何でも雑なんだよ。もっと優しくしろっつーの」

「喧嘩してこんな傷作ってる方が悪いでしょ。動かないで」