「どうせ同じ方向に帰るんでしょ」

「いや、俺、帰るとか言ってないんですけど」

「暑いし、私もう歩けない」

「知らねぇよ」

「このアイスあげるから!」


少しの睨み合い。

でも、根負けしたのは『ハルくん』の方だった。



「わーかった。乗れ」


言われるまでもなく、後ろに飛び乗る私。

こいつと仲よくするつもりなんてなかったけれど、でも暑さと疲労でそれどころではなかった。



灼熱の陽射し。

生ぬるい風に、汗が滲む。


自転車は、ゆっくりと走り出した。



「重っ」


嫌味は聞き流しておく。

こっちにきて、唯一、私が知ってる人。



「しっかし、お前、中2にもなって迷子とかどうなんだよ」

「仕方ないでしょ、初めての場所なんだし」

「だからって、それで俺に助けを求めるかねぇ」

「うるさいなぁ。あんたにはもう泣き顔も見られてんだし、今更、恥も何も」

「あぁ、やっぱりあの時、泣いてたのか」


振り向いたその顔がにやついていて、墓穴を掘ってしまったことに気付いた。

腹が立つ。


思わずその背中を殴ってやろうかとさえ思ったが、『ハルくん』は、そんな私に反し、ふと真面目な声で聞いてきた。