「あ、淕たちから聞いてない?
この店、雑誌に掲載されて
桐谷さんいない時、忙しくてさ…」
「そ~だったんですか?すみませんでした」
「うん、でも芽唯ちゃん来てくれたし
…
それから…
前に付き合ってた彼女が来たんだ」
「え!それって…
大好きだったって言ってた?」
「うん
別れた原因がこの店なんだ
…
高校生からずっと付き合ってて
大学途中で辞めて
カフェやりたいって言ったらフラれた
…
でも雑誌見て来てくれたんだ
…
大学途中で辞めるような人
何やってもダメだと思うって言われたんだ
…
でもちゃんとやってるんだねって
まぁまだ3年だけどね…
好きだから続けられるんだと思う
…
オレ、好きな事には
真っ直ぐだから!」
「ちゃんとやってますよね、店長」
「あ、からかってる?桐谷さん」
「からかってませんよ!」
「だって、ちょっと笑ってるし!」
「なんか、店長の恋話聞けて嬉しくて」
「やっぱ、からかってんじゃん!大人を!」
「からかってません!
それで、彼女とは?」
「花火、誘われたんだ
でも桐谷さんの病院行こうって決めてたから…
断ったんだ、花火」
「え!そんな!」
「桐谷さんのこと気になってたし…
…
病気のこともそうだけど…
…
それだけじゃなくて…
…
そんな時、好きだった彼女がまた現れてさ
…
オレって、タイミング悪いっていうか…
…
花火はまたあるし
桐谷さんの方が心配だったから…」
またある…
「またあるって思ってても…
もぉ、ないかもしれないことって
ありますよ…」
「なんか、意味深だね…」
またやろうね…
約束だよ…
「しかも花火に誘う心情って、きっと…」
「きっと…?」
「店長のこと、好きだと思います
私も好きな人と花火行きたかったから…」
「病院で、言ってたね…
…
行きたかった…って
なんで過去形なの?
これからだって行けるでしょ!」
「きっと、行けない…
…好きな人と花火見るの、夢でした」
「夢…って…そんな大それたこと?」
「はい、私にはぜんぜん大袈裟でもなく
ホントに叶わないような…
…
夢に見ることもないくらい
大それたことかもです
…
だから、店長!
今度は店長から誘ってください
好きなんですよね?彼女のこと
待ってると思いますよ、彼女も!」
店長が好きなのは私じゃない
タイミング、よかったんだよ
「桐谷さんの好きなアイツは…?
…誘えないってこと?」
私の好きなアイツ
上杉は…
「もぉ、会えないかも…」
「え!そんなこと…
誘ってみなよ!
…
オレも彼女誘うから…
花火の日、店、閉めるから!
淕と芽唯ちゃんも行くだろうし」
「店長、本気ですね」
「あ、また笑った!」
「はい、笑いました
上手くいくといいな…って思ったから」
「うん
桐谷さんもね
上手くいくといいね」
私は答えなかった
上手くいくか不安だったから
上手くいく気なんてしなかったから



