「あの、柚山くんいないですか?」


やたらと血色のいい唇からその名前が発せられた瞬間、
頭で考えるよりも先に顔が引きつるのを感じた。


まだ体育祭準備で慌ただしい放課後、
可愛らしいチア姿で教室の入り口から顔を覗かせたのは笠原さん。

細い脚を惜しげもなく出している。


「いや…普…
柚山くんは応援団なんで。
そっちの練習してると思います…」

その白い脚から目を離してぎこちなく返事をする。
何故か敬語で返すあたしに気にすることなく、笠原さんは目を輝かせた。


「えっ、柚山くんって応援団なの?!
いがーい!!そういうのやりたがらないかと思ってた!」

「あー、うん…
なんか顔がいいから見栄えするだろうってみんなに担ぎ上げられてた…」

「そっかー、チアとか応援団ってみんな顔がいい人ばっかだもんね!
ユリもそうなんだけど」


最後の言葉にピシリと固まったあたしに気付くこともなく、
笠原さんは軽快に自分のクラスへと帰って行った。


結局なにしに来たんだあの子は。