「…ねえあれなに?
どういうこと?」

「ムシャクシャしてやりました」

「そんなよくある犯罪者のセリフみたいな理由で…っ!」

「だってムカついたんですもん。
てか事実ですし、さっきの」

「事実なわけないでしょおー?!」

「俺が先輩を好きってこと」


…あ、そっち?


じゃなくて。


「…え、まだ、鳴海くんって、
その…あたしのこと」

「好きですよ?
そんなすぐになくなるわけないでしょう
諦める努力はしようと思ってましたけど」


開き直ったような態度に何故かあたしの方がうろたえてしまう。

どこか吹っ切れたような顔で、
あたしを真っ直ぐに見つめる目から

なんだかてとも逃げ出したい気分。


「ねえ、なにやってんすかほんと」

「…すいません」

「別に八宏先輩を怒ってるんじゃないですよ、
むしろ俺が怒ってんのは」


そこで途切れた言葉の先は、

ドタドタとうるさい足音にかき消された。

どこからか聞こえて来る足音はどんどん近づいて来る。


「……ほら、こうやって焦って走って来るくせに
肝心なことは言わないなんて。」


苛立った様子を隠すことなく唸った鳴海くんは、
不意にあたしの手首を思い切り引っ張った。