あたしにはそんな風に微笑んでもらえるような人間じゃない。
教室の中へ足を踏み入れ、ゆっくりとした足取りで明子の席へ向かう。
「体調が悪いって先生に聞いたんだけど、大丈夫?」
そう尋ねると、明子の表情がわずかに曇った。
「あっ、うん……。ちょっとね……。でも、もう大丈夫だから」
「そっか。先生が具合が悪いなら早退するか保健室にいたほうがいいって言ってたけどどうする?」
「ううん、大丈夫。ここにいるから。もしかして流奈ちゃん、心配して来てくれたの?」
ハッと何かに気付いたように表情を明るくした明子にあたしの胸は締め付けられた。
「えっと……うん、そうだよ」
先生に頼まれたから来たんだよって言えなかった。
明子の目が嬉しそうに輝いていたから。
正直に話せばその輝きを曇らせてしまいそうだったから。
あたしはまた嘘をついてしまった。
一つ嘘を重ねる度に、更にそれを上塗りするように嘘をついていく。
そうしているうちにどれが嘘でどれが真実かがよく分からなくなる。
そのうち自分のことをどんどん嫌いになっていく。
自分で自分がわからなくなる。