『愁人君にお母さんが電話したのよ。アンタが目を覚ましたって。だから、急いで病院に来ようとしてくれたのかも。それで、愁人君の前でお姉さんが車に……』

俺が目を覚ましたと聞いた愁人が慌てて病院へ向かってくれたのは理解できる。

でも、どうして愁人の姉ちゃんまで俺のところへ来ようとしたんだろう。

何度か彼女を見たことがある。

県の代表に愁人と一緒に選ばれた時、愁人の家族は総出で応援に来ていた。

『あれ、うちの家族なんです』

愁人がスタンドにいる家族を指さして照れ臭そうにしていたのをよく覚えている。

あの子、が。どうして俺に。どうして俺の病院に?

なぜだか分からない。

彼女のことを考えると、胸の奥底から不思議な感情が沸き上がってくる。

言葉を交わしたこともない彼女にどうしてこんな感情を抱いているのか分からない。

「姉ちゃん、この病院に入院してるんだろ?」

「はい」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫です。多少のケガはしてますけど、体はピンピンしてますから。先生もあんな事故で大ケガをしなかったのは奇跡だって言っていました。ただ……」

「ただ?」

「記憶が曖昧なんです。覚えていることもあれば、覚えていないこともある。事故の後遺症みたいです」

愁人は真っ直ぐ俺を見つめた。