「つーか、今日サッカーの試合見に行くんだろ?遅刻じゃね?」

「えっ!?あっ、ヤバっ!!!」

時計の針は9時を指している。

確かキックオフは10時半の予定だった。ここから隣町のサッカーグラウンドまでは電車とバスを乗り継ぐ必要がある。

あたしは慌てて用意を済ませると、家を飛び出した。

「湊ってば起きてたのにどうして起こしてくれなかったの!?」

「寝顔見てたら起こすタイミング逃した」

「やだ、寝顔とか無理!」

あたし、変な顔してなかったかな。ただそれだけが心配だった。

「実は昨日ね、お母さんに愁人の様子がおかしいって言われて……。また金山先輩にイジメられてるのかも心配なんだよね……」

「流奈は弟思いだな」

「まぁね。でも、昔は結構行ってたんだよ。愁人の試合見に。高校に入ってからは行かなかったけど、中学の県代表に選ばれた時は何度も家族で応援にいったんだよ」

「へぇ。県代表か」

「愁人ってホントサッカー大好き人間だから。なんか羨ましい。何か一つ特別な才能があることが。あたしには何もない。ただただ毎日生きてるだけ」

ずっと、そう思って特別な人間に劣等感を抱いていた。

自分を好きになってあがられなかった。

「生きてるだけでいいんじゃね?」

すると、湊が呟くように言った。