そんな簡単にまた好きになんて…


「何が分からない?」

「何が分からないかも分からない!」


そういうことか。

全て分からない、といったところかな。

これは手強いぞ…。

だけど私が、丁寧に何故こうなるか根拠も説明して、やっていると解けるようになってきた。


「マジか!解けたよ!」

「頑張ったね」

「塾の先生目指したら?」

「莉玖に教えるよりはいくらか楽かもね」

「俺、そんな末期なの?!」


私はつい笑ってしまった。


「柚妃可愛い。久しぶりに笑顔見たや」


そう言って頭を撫でてくる。

気安く触らないでよ。

好きが増してしまう。

莉玖の体温に、雰囲気に、飲み込まれそうだ。


「頭撫でても、ダメか…」

「逆にそれで落ちる女はやめておいた方がいい」


簡単に人を好きになれる。

浮気するタイプの女の子だと思う。


「じゃあ逆に言えば、俺にとって素敵な女の子ってことか!」


なんてポジティブな頭なんだ。


「でも難攻不落なのは、厳しいなぁ」


もう簡単に落とせるよ。

言ってやらないけど。

ただ莉玖の動向を見てるだけ。


17時になって、私はバイトの支度をしないといけなくなった。


「18時から、バイトなんだよね今日」

「え、バイト?何してるの?」

「焼肉屋さん」

「そうなんだ!忙しいのに数学教えてくれてありがとね!また来る!」

「うん」


気を抜いていた。

莉玖は私を抱き締めてきた。


「好きになってよ…柚妃」


何と答えればいいんだろう。


「信じられるようになったらね」


そう呟いて、彼の胸辺りを押して、離れるようにした。


「どういうこと…?」

「そのまんまの意味。バイト遅れる」

「あぁ…ごめん。帰るね」


マンションのエントランスまで見送って、急いで支度をする。