HRが始まってから、門を通る。
保健室のドアをノックして入る。
「あぐりさん。教科書取りに来たの?」
私は静かに頷く。
「ちょっと待ってて。あなたの分、別にしておいたはず」
そう言って佐野先生は、保健室を後にする。
私は椅子に鞄を置いて、横の椅子に腰掛けた。
こないだ、鈴木先輩が座っていた椅子だ。
1分ほどで佐野先生は、教科書や資料集の束を持ってやって来た。
「はい、これ。合わせて14冊あるはずだから、確認して」
「はい。…あ、ありがとうございます」
佐野先生は自分の机に行き、座ってこちらを頬杖をつき、ぼんやり眺めてくる。
それを少し、落ち着かないなーと思いながら冊数を数え始める。
確かに14冊ある。名前書こうっと。
「じゃあ…用事終わったんで…」
「また嶺野先生に会っていかないの?」
「え…」
「担任と話さないで、またズルズルと学校来なくなるつもり?」
まただ。
学校に来なさい、教室に行きなさい。
聞けば聞くほど、蓄積されてアレルギー反応みたいになる。あと2ヶ月も言われたら、“学校”って言われただけで、蕁麻疹出そうなんだけど。
「せめて今日は、嶺野先生と会ってからにしたら?」
「…じゃあ、そうします」
こないだみたいに時間を潰せる物が無いわけじゃない。教科書をパラパラ眺めていればいい。
紙が擦れる音、パソコンのキーボードを叩く音…そんな小さな音が、保健室の中に響く。



