そこに佐野先生がやって来る。
俺と目が合っても、さして反応することなく、齋藤さんに目を向けた。
「あぐりさん、来てたんですね」
齋藤さんは顔を上げて、佐野先生を見上げた。
「はい」
「せっかく来たんなら、体育館に来なさいよ」
「…それは…」
彼女のことをよく知らないけど、もし久しぶりの学校なのだとしたら、だいぶ酷な話だ。
遅刻していたとして、さっきまで1人で何かに耐えてる様子からして、途中から体育館に入るのができるような子には見えない。
…まあ、佐野先生らしいっちゃらしいけど。
顔を伏せてしまった齋藤さんに、佐野先生は続ける。
「2年4組よね。休み時間になったら、1度嶺野先生も降りてくるだろうから、とりあえず待ってなさい」
「…はい」
齋藤さん、心配だけど…俺も教室行かなきゃだしなぁ。休み時間に来たら、まだいるだろう。
ひとまず上に行くことにした。
教室でプリント配布や、新学期の説明をされて、休み時間になる。
少し食い気味に教室を出て保健室に向かう。
「失礼しますっ」
「ああ、鈴木くん」
佐野先生が軽く反応する。
だけど、中には彼女の姿は無い。
「…あれっ、齋藤さんは…?」
「帰るって言って、嶺野先生に会う前に帰ったけど。約束でもしてたの?」
「え…いや…。
勝手に僕が心配してただけですけど」
帰っちゃったかぁ…。
仕方無い。また、会えるかもしれない。
でも俺はどうして齋藤さんを、こんなに気にかけているんだろう。
いくら何度か見かけたことがあったとはいえ、言葉を交わしたのは今日が初めてだ。
何なら、ほぼ俺の独り言みたいな感じだった。
それなのに…。
よく分かんないけど、目を離したくない。



