ほら、早くしないと。
勇気が、薄れちゃう。
先輩を中途半端に嫌いになるだけで終わりになっちゃうから…。
ああ、もう。
まだ好きだって言ってるのと同じじゃんか。
「俺のこと、本当に嫌い?」
「…嫌、い」
「だったら何で、そんな悲しそうなの?」
悲しくなんか…!
まだ大丈夫だ。嫌いになれる。
隙を感じた私は、彼の左手を振り払い、校門の方へ走った。
「あ!ちょっと…!」
校門の鍵が開いていない!
時間が経ってしまったから、再び施錠されてしまったのか。
「あぐりちゃん、待ってってば…!」
先輩は、濡れながら私を追いかけてきた。
当然追いつかれて、腕を掴まれる。
「やだっ、離してっ…!」
さっきからそればっか言ってる。
だけど、それが精一杯の抵抗だった。
門の開け方を知ってる。
去年の支援員の先生が何故か教えてくれた。
本当は生徒が触っちゃダメなんだけど。
近くにある蓋を開け、その中にあるスイッチを押すと、開くシステムになっている。
私は空いてる方の手でスイッチを押して、やっとの思いで門を開ける。
力強く先輩に腕を引かれるけれど、それを必死で引っ張って歩こうとする。
「待って…お願い…」
「もうやめてっ!」
私は勢いよく振り払った。
その拍子に、彼は門にガンッと肩をぶつけてしまった。
「いっ…!」
彼のあげた、痛そうな声に、また心臓が締め付けられたけれど。
私はそのまま、雨に濡れて走って帰って行った。
さようなら、先輩。



