「あぐりちゃん…!」
彼は私の左手に、傘を押し当てるようにしてきた。
「いらない!」
そんな私の声と同時に、私が振り払った傘は地面にバシンッと叩きつけられる。
虚しい感情がジクジク侵食するように、心の中で広がる。
心臓がジクジクと痛む。
少しだけ、時間が止まったような気がした。
「何で…あぐりちゃん…」
「…っ、離してよ」
悲しげな彼の反応に、思わず言葉を出すのに躊躇しそうになった。
「今離したら、あぐりちゃんどうするの?」
よく分からない質問をされた。
「…家、帰る」
「本当に?」
意図が読めない…。
「…さっき、引き止めないって言ったけど、やっぱ前言撤回。
今手を離したら、俺の届かない場所に行ってしまいそう」
そうだよ。
先輩とは関わらない。そう決めたんだ。
お互いにとって、いいことなんだから。
もう、躊躇わない。
「…らい」
「え?」
「先輩のこと、嫌いっ…」
「えっ…?」
「大っ嫌い…!」
面食らったように私を見つめてくる。
何故だか涙が出そうになる。
目が合わせられない。これで最後なのに。
「急に…そんなこと言わないでよ、あぐりちゃん…」
「だからもう、さよならです」
上手く笑えたかな。
笑えないよね。
「え、何言ってるの?あぐりちゃん、ホントに…」
「お願いだから、離してください」
「離さない」
「離してください。先輩とはもう、会いません」
「やめてって…」



