「…俺、待ってるから。
またあぐりちゃんと、楽しく話せる日が来るまで。またっ…あぐりちゃんが、俺に笑いかけてくれるまで」
彼は寂しげにそう言ってきた。
何、それ…。訳が、分からないよ…?
「それまで、今あぐりちゃんが抱えてる不安とか、悩みとか愚痴とか、何でも…俺が全部受け止めるから。あぐりちゃんがいなくなるの、嫌だから…」
元気が無いけれど、いつもの優しい声だった。
そして、痛々しいほどに無理して微笑んでいる。
そんな彼を見るのが、しんどくなってきた。
「俺、急かさないから。今帰るのは引き止めない。引き止めないけど、傘だけはほら、持って行って?」
そう言って、私に傘を差し出してきた。
…何だか、居た堪れなくなってきた。
早く、先輩のことを嫌いになってしまいたい。
このままじゃ、嫌いになんかなれないくせに。
井口さんからどんな仕打ちを受けるとしても、好きなままでここから動けないくせに。
…だったらもう、この場から早く離れるために、精一杯嫌いなフリをするしかない。
そして、優しさなんて出せないくらいに…
嫌われるしかない。



