「ねえ、どうしちゃったの…?
俺、何かしたかな…」
彼の言葉が、私の心臓をキュウっと締め付ける。
と同時に、涙目になっていく。
目を瞑る。
涙が流れないように。
泣かないように。
引っ込め、引っ込め…。
また歩き出す。早く、行かなきゃ。
外は、雨が降り出していた。
割と強めに降っている。
傘持って来なかったんだった。
降る前までに帰れなかったな…。
濡れて帰るしかないな。
だけど、涙を誤魔化せるからいっか。
そう思いながら、雨の降りかかる外に足を踏み出した。
後ろの方で物音がした。
何かを落とす音と、何かが擦れる音。
あと、足音と。
次の瞬間、手首を掴まれて、強引に後ろに向かせられた。
力が強い。
比較的細身な先輩も、やはり男の人だ。
「傘、忘れたの?
ほら、俺の持って行っていいから」
私の手首を掴んでいない右手には、彼の私物であろう黒い傘がある。
つい、彼を見上げてしまう。
「俺は大丈夫だから。あぐりちゃんに、風邪なんか引かせたくない」
また名前を呼んだ。
風邪を引かせたくないって言った。
そして彼は、優しく…でも、どこか切なげに微笑んでいた。
どこまでも優しいんだな…。
今までそれは、私の心を柔らかく包み込んでくれていたけれど、その優しさが、今では私を傷付けるなんて思ってないんでしょ?
裏では、煩わしいとか迷惑だとか、言ってるくせに。



