途中事務室で、校門の鍵を解いてもらうことをお願いする。
昇降口に着いて、靴を履き替えていると。
「あぐりちゃん!」
と、聞き覚えのある声がする。
嫌な予感がした。
顔なんか見なくたって分かる。
好きな人の声だもん。
「もう帰るの?
今月入ってから話せてないじゃん。
ちょっとだけでも、話せない?」
目に入った彼は、音楽のファイルとペンポーチを持っている。
チャイムが鳴っていないことから察するに、早めに終わったんだろう。
どうして…そんなこと言うの?
私のこと…煩わしいって、迷惑だって、井口さんに言ってたんでしょ?もうやめてよ…。
「9月から教室戻れたのかな?って思って嬉しかったんだけどさ、佐野先生と嶺野先生の話を聞いちゃって…全然来られてないんだって?
どうしたの?俺にだけでも話してくれない?」
先輩が原因なんじゃん…。何で、何で…かな。
井口さんが、彼にあのことを言っていないのは分かったけど。
私の口からやっとの思いで出てきた言葉は…。



