「嶺野先生にはちゃんと話す?」
「…誰にも話したくない、です」
美唯にしか、言えない。
「別室登校も、しばらくしたくないです」
「そう言われても…」
しばらく距離を取れば、中3生なら受験で頭がいっぱいになる。それまで会わなければ、もう絡むことなんて無いはず。
「もう、帰りたいです」
時計を見て、急かすようにそう言った。
いくら休み時間になる前とはいえ、家で行きたくないとグダグダしていたから、少しでも早く出ないと、チャイムが鳴りそうなんだ。
「理由を…ねえ?」
「だからっ、言いたくないんです!」
「ちょっと落ち着きなさいよ、あぐりさん」
「もう、帰りますから…休み時間始まっちゃうじゃないですか!」
「ちょっ…」
私は佐野先生が戸惑っているのをいいことに、保健室を後にした。
1秒でも早く、学校を後にしたかった。
今少しでも鈴木先輩に会ってしまったら…。
揺らいでしまう。
泣いてしまう。
どうして優しくしてくれたんですか?
こうなるのなら…煩わしいって思ってるなら、最初から話しかけないでほしかった…。
どちらにせよ、悪い方向に進んでしまう。
だから、会うわけにはいかない。



