「あ、齋藤さん。こんにちは」
女性の声で、ふと現実に戻された気がした。
新しく担任になった、嶺野先生の声だ。
私はスカートをキュッと握りしめる。
「国語科の嶺野桐子です。1年間よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
佐野先生に似て、落ち着いたクールな女性だ。
昨年度もいたから、一応知ってる先生ではある。
「1年生の担任から、ある程度聞いています。
今年度はどうしますか?」
「…教室には行きたくありません」
「少しずつ授業に出るとか、そういうことはしませんか」
3時間目4時間目に出て、給食食べて帰る。
みたいな?
「私に40や70は無いです。
0復帰か100復帰かです」
途中から来て途中で帰る…。
普通に登校できる子からしたら、目障りでしかないでしょ。
アイツは途中から来ても褒められて、何なんだよ…って。
だったら私は、最初から行かないで“いない”ことにされた方がマシだ。
「100復帰なんて、いきなりできると思う?」
「少なくとも、今年度はするつもりありません」
「ああ…ハッキリ言うのね」
「受験生ってなったら、強制力というか…行けるんじゃないんですか」
「んー…」
何とも歯切れの悪い反応をされる。



