寂しい姫と不器用王子



なんて声をかけるのが正解かなんて分からない。

ポロポロ涙を流す姫莉に、何を言っても傷付ける気がした。


「おいで」


俺は腕を広げた。
何してんだろう、とも思った。

だけど姫莉は、優しく抱きついてきて。
声をかける代わりに、優しく抱き締め返した。

彼女のために、何も言いたくなかったけど、ひとつだけ言いたくなった。


「好きだ」


抱き締める力を強めてしまった。
壊れそうな脆い姫莉を。


「うん」


姫莉も抱き締める力を強くしてきた。

好きだとは言ってくれない。なんなら、まだ名前を呼ばれたこともない。

これは期待していいのか、どうなのか。


翌朝。


「姫莉。朝だよ」

「起きてる」


相変わらず、ベッドの端と端で寝ている。

抱き締め合いながら寝るとか、進展あっても良かったのではないかと思ってる。


「今日は行かなくてもいいんじゃない?」

「行けなくなっちゃうから行くよ。制服、乾かしてくれたから臭いも無くて大丈夫だし」

「そう?俺的には心配なんだけど…」

「大丈夫」


女の子の大丈夫は大丈夫じゃないなんて言うが。


「無理になったら、俺んとこ来いよ」

「…分かった」