姫莉はそそくさと席に戻った。
放課後、1年3組の教室に来ると、数人残っていて、その中に姫莉もいる。
「姫莉。帰るぞ」
「うん」
「遅くなって悪い」
「大丈夫だよ」
特に何も話さず帰る。なんとなく、もどかしい距離感。家の中では、もう少し近いのに。
気付かないふりしてるだけだ、俺なんかもうとっくに姫莉のこと好きなんだよな。
この関係に慣れて、いつまでも好きの2文字を伝えられないまま。
付き合ってほしいなんて、いつになったら言えるのだろうか。
「何、ジロジロ見てきて」
「いや、なんでもない」
無意識で姫莉のこと見ているくらいなのに。
身体の関係がどうこうじゃない。そんなのどうでもいいんだよ。ただ頭を撫でたいだけ。その頬に触れたいだけ。抱き締めたいだけ。願わくば少し唇を重ねたいだけ。その、どこか触れてはいけないような彼女のことを守りたい。
それだけだ、でもそれが難しい。
軽く溜め息をついた。
「…私より後から帰るとかすれば良かったのに」
「え?」
「一緒に帰るの、嫌みたいだから」
「ああ、そうじゃなくて」
「じゃあ何?」
「…なんでもない」
言えるわけない。



