ただ幸運なことに、返却された本が沢山ある。片付けをしよう。ウロウロするから気も紛れるし、隣にじっと座ってないといけないわけでもない。
「本棚の整理行ってきます」
「ああ」
相変わらず目は合わせてくれない。
後ろから、溜め息が聞こえる。
そんなに、借り物競争に付き合わされたのが嫌だったのかな…。
それ以外に、呆れられる?嫌われる?要素が思い浮かばない。
配置を覚えてない私にとって、未だこの広めの図書室は迷路みたいなもんだ。踏み台を持ちながら、返却本の棚を引き摺ってあちこち移動する。
1時間弱は溶けただろうか。最後の1冊。
地味な高さで、まあ背伸びすれば届くだろうと、思い切り背伸びをする。
「ふんっ…!ふんっ!」
入りそうで入らない。
いやいや、入れてやる。つま先で立つようにする。
「ふんっ!ふんっ!」
その時だった。後ろからすっと手が伸び、本が収納される。
「横着するな。無理に背伸びすると、腰痛めるぞ」
茜部先輩だった。
「えっ、あっ…すみません、ありがとうございます」
目が合う。逸らすことなく、じっと見つめてくる。
と思っていたら、ふいっと逸らして、
「まあ、可愛いんじゃないの。次は踏み台使えよ」
と言ってきた。そして、受付に戻っていく。



