絶対に誰も呟かないことを、呟いてみる。私には、前世の記憶がある。えっと、確か……老舗で、おばあさんから筆ペンをもらったその日に、事故に巻き込まれたんだっけ。

気づいたら、私はマルスティアという世界に転生してて、もう15年もこの世界で暮らしてる。

この世界では、魔法を使えるのが当たり前。たまにだけど、特殊スキル……前世で言うところの特殊能力が付いてる時があるんだって。その特殊スキルを、私は持ってる。……皆、特殊スキルのことをスキルって呼んでるよ。

私の場合、『線を具現化する力』。前世でもらったのと同じ形の筆ペンで、空中に絵を描いたものを具現化することが出来るんだ。文字や図形とかでも具現化できるよ。

他にも、物の上に文字を書けば、一定時間書いた文字のエフェクトを得ることも出来る。マルスティアでは、効果を付けることを『エフェクトを得る』って言うみたいなんだ。

「……ラナ!」

筆ペンの魔力を分散させて筆ペンを消すと、私は声がした方を見た。紫髪に大きなピンク色の目の男の子が、私に向かって手を振ってる。

「紫羅(しら)……」

紫羅は、私の幼なじみ。とても優しくて、可愛らしい顔立ちをした男の子。

「……クロノスとカイロスの対立なんて、無くなれば良いのに」

森にある小さな草原に寝転がりながら、紫羅は呟いた。私は、紫羅の隣に座る。