私はもう一度、手元に視線を落とすけれど、その手が動くことはなかった。


“ワシントン条約は何年に結ばれましたか?”問題には、そう書いてある。

これは、社会のプリントだ。


そもそも、ワシントン条約ってなんだ?



「分からないーー」



帰りたくても、進めようが無い。

教科書をパラパラとめくっても、目当てのページがどこか分からない。



「はぁ、煩い。ーー1871年だ」


「えっ?」



この人は、なんの事を言ってるの?

訳が分からないまま、隣の席を見ると、プリントが終わったらしく、既に立ち上がっていた。

早すぎるーー。

そして、座っている時には見えなかったけれど、立ち上がった拍子に揺れたネクタイは2年生のものだった。


だけど、そんな事が気にならないほど、私はその人から目が離せなかった。


スラッとした長身に、整った顔のパーツ。

短めに切りそろえられた髪の毛を見て、私は息を飲んだ。


ハッとするほど、綺麗な顔。


私の好み、どストライクだ。