「あの時私は、一生嶋村くんに告白するつもりなかったから……奏波に頼んだの。嶋村くんと二人きりにしないで、って」



一生告白するつもりない、という言葉に雪姫の悩みが垣間見えた気がした。



……だからお嬢は、さっさと告れと煽ってたのか?雪姫が現状維持を願っていたから?

雪姫が俺と帰るのを嫌がったのは俺を意識してたからと知って自然と口角が上がる。



ダメだ。



これ以上、雪姫の甘い話を聞いてたら理性が保たなくなる。



「雪姫……」

今はもう違う話題に切り替えたくて、雪姫の顔を覗き込んだ。



途端に雪姫と目が合う。

真っ赤な顔で潤んだ瞳は、俺を十分に煽っていた。

無意識に引き寄せられ、雪姫の唇に目がいった時。




「雪姫〜」
ガチャッ

と、ドアが開いた。









俺等を見つけた奏波嬢は無言でドアを閉めようとした。




俺は即座に立ち上がってドアを開けた。



「お嬢、ちょうどいい時に来てくれて助かった」

ため息を吐き、お嬢にだけ聞こえるように小声で言った。




「…………まさか未遂なの?
やめてよ、私のせいになっちゃったじゃないっ!せっかくの雪姫の誕生日なのに」




……俺の理性を引き止めてくれたと思ったのに、まさか逆に責められるとは……




「か、奏波」

まだその場に座ったままの雪姫が声をかけた。

「何?」

「髪を結ってほしいの。これ付けたくて」

奏波が雪姫に近付き、雪姫が手に乗せてる髪留めを見て、そして何故か俺に振り返る。

なんとなくバツが悪くなって目を反らす。



「いいよ。ちょっと上がるね」

靴を脱いで雪姫の後ろに周り込み、
手持ちのバッグからブラシを出して雪姫の髪を結い始めるお嬢。


なんとなく居たたまれなくなった俺は一度外に出て冷気で頭を冷やした。