馬の横に立つと簡単に乗り方を教えてくれるオーナー。
けど、左足を鐙に乗せるだけでも足が攣りそうになる。
やっぱり無理、と諦めかけた時、嶋村くんが私の腰を掴んだ。
驚く間もなく「せーの」の合図で腰を持ちあげられて、ようやく馬に跨がれた。
「もうちょっと座る位置……、前に動ける?」
思った以上の高さと不安定さでちゃんと座れてないのか、言われた通りに座り直す。
「ちゃんと掴まってて」
そう言った瞬間、ひらりと嶋村くんが跨がった。
「!?!?」
嶋村くんの体温が私の背中に感じる近さ。
「し……嶋村くん、あの……」
「……なんか、斎藤に"嶋村くん"って呼ばれたの久しぶりだな」
弓道場での呼び方。
道場内は規律で呼び捨て禁止だったから。
懐かしい頃を思い出して顔が熱くなる。


