_ドテッ
立ち上がろうとしたら、布団で滑って転んだ。
「あら、大丈夫?」
布団の上だから痛くはない。
いや、そうじゃなくて、
「……見てたんですか」
あの時は暗かったし、私以外誰も起きていなかったはず。
私がそう問いかけると、結さんはケータイをポケットから取り出して、画面を私に見せた。
「見てたもなにも、私が一番最初に起きたのよ。そしたら、二人が抱きしめあって寝てたんだもの。」
「微笑ましかったわ~」
そう言ってふにゃりと笑う結さん。
「ちょっ、まちうけにしなくていいですからっ」
私がケータイを奪おうとすれば、またスッと簡単によけられてしまった。
てゆうか抱きしめあってなんかなくて、
「あれは事故で、夜中にベッドから落ちた私を先輩が突然抱きしめてきて…」
私が何か言えば言うほど、結さんは嬉しそうに笑う。
「それで朝までハグしてたのね」
「離してくれなかったんです。先輩きっと寝ぼけてたんですよ」
今度はちゃんと立ち上がって、部屋を出ようとしたとき、結さんが私の手を掴んだ。
振り向くと、真剣な瞳で見つめられて、私の心を見透かしたように言った。
「自分の気持ちを見て見ぬふりするのは、だめよ」
そう言ってウインクをすると、「行きましょ」と言って、階段をおりていった。
結さんの言うことはいつも難しい。
私には分からないことばかり。
でもすごく大事なような気がして、私の中身をもうとっくの前に知られているようで、
なんだかモヤッとしたものが、心に残った気がした。



