渚先輩、好きってなんでしょうか?



「帰ろっか」


そういう先輩の髪は、まだピョンッとはねている。



…気になるけどあえて言わないでおこう



私はぐっと笑いを堪えてから歩き始めた。




帰り道。


駅に着いた私達は電車を待っていた。




たまたま先輩と私は同じ電車通学で、こうして一緒に帰っている。




「おい、ぶつかってんじゃねーよっお前ちゃんと前みろやっ」



そんな大きな声が遠くから聞こえて、思わず視線を向けた。




すると、誰から見てもお酒を飲んでいるだろうと思うくらい酔っぱらったおじさんが、若い女の子をキッと睨んでいた。



…うわー、寒気する



「す、すみませんっ」



高校生くらいの女の子は、必死に謝って頭を下げている。



申し訳なさそうに謝っているのに対し、おじさんはいまだに睨み付けている。


…ちょっとぶつかったくらいで、しょーもねーやつ



「謝ってるので、許してあげたらどーですか」



思ったことをそのまま口にすると、電車を待っていた人達が私の方を青ざめた顔で見つめた。



おじさんも私をすごい顔で見ている。




「…なんだてめー」



そう言うと、おじさんは殺意のある顔でずけずけとこっちに近づいてくる。



「調子のってんじゃねーぞ!」


…え?



「…別に調子のってませんけど」



私が全然怖がらないからか、おじさんは少し目を泳がせた。



「大声で、女性にぶつかったくらいでしのごのいってるあなたの方が、」



「よっぽど調子のってんなって思うんですけど」




「…違いますか?」



おじさんはみるみるうちに顔を真っ赤にして、怒りで震えている。



男の人が私に一歩近づいたとき、私の前に誰かが入ってきた。