「…ちょっと待って」



…え?



私はゆっくりと振り返る。



すると先輩は一歩、また一歩と歩みを進め、私の目の前で立ち止まった。



…え、なに



_ごしごし…



頬に優しく触れたかとおもえば、目元にも同じことをされて、



ぼーっとしている私を見て、ふっとはにかんだ。




「よし、これで大丈夫だね」




きっと先輩は涙を拭ってくれたのだろう。




私が泣いていたことを、皆に知られたりしないように。




「あ、」



「……ありがとうございます」




私が素直にお礼をいうと、先輩は無邪気にニッと笑った。




「ラジオ体操、台の上から見てるからね」




…げ



そういえば生徒会長は、みんなの見本として台の上でラジオ体操をするんだっけ。



というか、



「…見なくていいですから」



そんなふうに言われるとやりずらいし。



階段をおりる先輩の後ろ姿を追う。



「…その猫の団シャツ、」



先輩はこっちを振り向かずに、言った。



「似合ってる」



その後ろ姿からは、先輩がどんな顔をしているのかは読み取れない。




「……そう…ですか」




なんだかいつもと空気が違って、



こんなそっけない返事しか、返すことができなかった。