おかしい。
どうして渚先輩を頭に思い浮かべると、なんとも言えないような気持ちになるんだろうか。
どうして先輩が言ったひとつひとつの言葉が、私の頭から離れないのだろうか。
私を可愛いという先輩は、変わっているのだろうか。
変わっているに違いない。
だってそんな言葉、先輩以外に一度も言われたことがない。
こんな無表情で、何を考えているのか分からないとさんざん言われた私が、
面倒だと言う言葉が口癖の私が、
可愛いはずがない。
「山田さん」
近くで誰かに名前を呼ばれてハッとした。
名前を呼んだのは、クラスメイトの男子だった。
…誰だっけ
「…はい」
「先生がずっと呼んでるけど」
…あ…シャツ
急いで先生のもとへ行くと、青シャツを渡された。
「一緒に頑張ろうな!」
そんな言葉と共に。
…頑張る…か
私にできるのだろうか。
渚先輩や、このクラスメイトのように笑ったり、楽しんだり、そしてそれを表現することが。
私にはきっと難しいことだ。
「…はい」
返事をした声は、消えてしまいそうなくらい小さかった。



