花宮 泉(ハナミヤ イズミ)さん。
私は花宮さんを、何度かこの図書室で見かけたことがある。
黒いメガネをかけていて、おどおどしていたのが印象的だった。
_トンッ
ある日、図書室で本を探していると、軽く誰かとぶつかってしまった。
『ひっ…あっ、すみませんっごめんなさいっ』
私とぶつかった人は、
私が謝るよりも先に、とても申し訳なさそうに何度も謝ってくれた。
その人が花宮 泉さん。
床には、私とぶつかったとき落としたであろう本と、ぶつかった衝撃で本のページから飛び出した、しおりが落ちてある。
『…私の方こそすみません』
謝ってから、床に落ちてあるものを拾い上げようと手をのばす。
その時しおりに、花宮 泉と綺麗な字で名前が書かれているのを見た。
本としおりを花宮さんに渡すと、また何度も謝られ、『ありがとうございます』も2回以上は言われたと思う。
「…いったいどこに…」
…もしかしたら、私とぶつかった時に…
そんな不安が私の心の中にずっとあるのだ。
柄じゃないが、人の不幸を喜ぶほどの人間でもない。
面倒なことが嫌いな私でも、こればかりは面倒などと言っている場合ではない。
一応図書室にいた生徒全員や、先生に聞いたが、見かけた人はおらず、空がオレンジ色になっても、見つかることはなかった。
「……ない」
はぁーっと深いため息をひとつ。
こんなに探しても見つからないなら、図書室じゃないのかもしれない。