先輩から聞いてくれるのは、これが初めてだった。
話題がなかったから言っただけなのかもしれないけど、
なんとなく、少しだけ嬉しかった。
私はいつものように、つまらない話を始める。
「…やっぱり人の感情って理解できないって話です」
つまらない。
誰かへの不満、疑問、
「うん」
「ちょっと本当のこと言っただけで怒っちゃったり」
…傷心
「あーー、めんどさいー」
とにかく人は、面倒だ。
「…ね、ココさん、今日は天気がいいよ」
隣から、そんな優しい声が耳に届いた。
先輩の声は不思議だ。
落ち着く雰囲気で、優しい。
私も先輩と同じように窓へ視線を向けた。
空は綺麗な水色で、優しい光をはなっている。
「………」
その時、ぎゅっと少しだけ、
繋いでいる手に力がこめられた気がした。
「大丈夫、そんな日もあったって大丈夫」
不思議だ。
渚先輩といる私は、少し優しくなれたように感じる。
優しいのは先輩で、私はひとつも変わっていないのだろうけど。



