先輩の近くにいくと、先輩の服を両手でぎゅっと掴んで、
びっくりしている渚先輩も無視して、必死に何かを言っていた。
「……うぅっ…なんで…」
「話を…聞いてくれるのは…」
「っ…渚先輩の役目でしょうっ…?」
その何かは、自分でも全然よく分からないものばかりで、理解できないものばかり。
「…先輩がいないとっ…話ができないでしょうっ…」
こんなことが言いたかったわけじゃないのに。
「……会いたかったんですっ…」
私にとって、先輩は…
「…ぅ~っ…」
他の人とは何か違う、不思議で特別な人。
椅子に座ったままだった先輩が、スッと立ち上がった。
そして優しく、ぎゅっと抱きしめてくれた。
その温もりは心地よくて、やっぱり先輩からはいい匂いがする。
「…そうだね」
「…たくさん聞かせて…」
「だからもう、そんなに泣かないよ」
ポンッと頭に置かれた手が、優しく頭を撫でてくれる。
先輩は何も分かってない。
そんな優しい言葉をかけられると、もっと涙が溢れることを。
きっとこんなまとまりのない言葉たちが、私の心の中のぐちゃぐちゃで、
ふたをしてしまえば簡単だけど、
ふたを開けてしまえばこんなに脆い。
人間はみんなそうなのかもしれない。
「……バカ…バカバカ…」
「ふっ…それはただの悪口」
面倒なことばかりで、
分からないことばかりで、
それでも誰かとたくさん話をして、
そうして人は生きているのかもしれない。
話なんてつまらなくてもいい。
他愛のないことでいい。
それがいい。



