ただ、ひたすら走った。
面倒だとか、そんなこともどうでもいいくらいに、走った。
いつもこうして追いかけてくれる先輩に、
今度は私が追いつきたくて。
…はやく、先輩に会いたくて
「はぁっ…はぁっ…」
夏らしいぬるい風が頬を撫でる。
放課後のシーンとした校舎も、
グラウンドから聞こえるサッカー部の声も、
気にならないくらいに。
私にとって、先輩は…
シーンと静かな、図書室のドアを勢いよく開けた。
けれどそこには渚先輩の姿はない。
…あれ
ゆっくり息をすることも忘れて、肩で息をしたまま足を進めた。
「……あ」
……見つけた
図書室の奥の方で、イヤホンをして椅子に座っている渚先輩。
私が来たことに気がついてないみたい。
珍しくメガネをかけて、じーっと何かの紙とにらめっこ。
……いつもと変わらない
生徒会室にいるときも、図書室にいるときも、
どこにいたって、先輩の真面目は変わらない。
「……先輩」
イヤホンをしているから、聞こえるはずがないのに、気がついたらそう呟いていた。
「……渚先輩…」
先輩の名前を呼んだとき、
なぜか私は泣いていた。
別に悲しくもないし、目にごみが入ったわけでもないのに。
先輩がやっと顔をあげて、その優しい目がしっかりと私を見つめる。
「…ココさん?」
久しぶりに聞いたその声は、いつもより優しく、甘く聞こえた。
「……寂しかった」
私が先輩の前で発した最初の言葉は、これだった。



