「見て見ぬふりをしてはダメなのよ」




「自分の心と向き合うことを、諦めてはいけないの」




そう言う結さんの笑顔は、とても大人で美しい。




そういえば菅原にも、似たようなことを言われた。




“『寂しかったら、寂しいって言って』”




“『こーちゃんは寂しいって思ってるくせになにもしないっ』”




…なんだ…



菅原より私の方が、




よっぽどバカだ。




菅原は一生懸命、私に伝えようとしてくれていたのに。




「…渚先輩、」




「渚先輩は、どこにいますか?」




気がついたら渚先輩の名前を、口にしていた。




結さんは少し目を丸くして、でもその後、ふっと優しく笑ってくれた。




「……さっき図書室にいたわよ」





「ありがとうございます」




「…私、渚先輩に話したいことがあるんです」



「たくさん、たくさん、」





「こんなにわがままで…」




「いいんでしょうか?」




今の私は、すごく情けない顔をしているのだろう。




いつも余裕ぶってるくせに、中身は、本当はこんなにも脆い。




面倒なふりをして、気づかないふりをしていただけの心。





「…心花ちゃんの初めてのわがままくらい、会長は聞いてくれるわよ」





「それに渚だって人間よ。ずっと求人とにらめっこじゃ疲れてしまうもの」




「だからたまには、話をしてあげて」




私はゆっくりと頷くと、生徒会室をとびだした。